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魔法のカクテル 22/真実 1

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-09-07 19:28:42

「嫌いになんかならないですよ。美和さんにはいつも助けてもらっていますし……」

 家からあまり出ることがない私にとって、美和さんは唯一の話し相手だった。

 孝介と結婚してから、同性の友達とは連絡も取らなくなり、疎遠になってしまったから。

 彼女と··のことを話す時間が、私にとっても気分転換になっていた。

「良かった。美月さんとは···仲良くしていきたいと思っています。だから、もし何か気に障ることがあったら何でも話してくださいね。雇い主さんとただの家政婦との関係かもしれないけど……」

 美和さんの気持ちが嬉しい。

 私は何の疑いもなく

「はい。ありがとうございます」

 返事をした。

 しかしその刹那ーー。

「美月さんって本当に羨ましいです。あんな優しくて頼りになる旦那さんがいて。私は結婚どころかまだ彼氏もいないから。孝介さんみたいな人が旦那さんだったら良いなって。思っちゃいます」

 本当の孝介がどんな人か知らないから、そんなことが言えるんだろう。

 でもここで孝介を否定するようなことを言ってはいけない気がする。

「そんな。孝介も美和さんにそんなことを言われたらきっと喜びますよ」                             

   無難な返答をするしかない。

 さっき<············>って言ってくれたけど、羨ましいって伝えてくれた美和さんの目は笑っていなかった。

 どこか鋭くてーー。

 私は怖いとさえ感じてしまった。

美和さんが帰って、孝介と二人きりになった。

 もう一度孝介に「働きたい」と伝えよう。

 タイミングを見計らっていた。

 孝介は自分の部屋にいる。

 何をしてるかわからない。

 夕食後、お酒が入っている時に話をしよう。

 美和さんが作ってくれた夕食をただ温め、テーブルに並べる。

 孝介の部屋をノックし

「夕ご飯だよ」

 声をかけるも返事がない。

 ただ扉の向こうで物音がしたから、リビングへ来るだろう。

 しばらくすると彼が部屋から出てきて、イスに座った。

「お酒は飲みますか?」

「ビール」

「はい」

 ビールをグラスに注いで彼の前に出すと、それを彼は勢いよく飲んだ。

「はぁ。一日休んだだけだと、休んだ気にならないな。明日も仕事だし」

 美和さんが作ってくれた料理を食べながら彼がポツリ呟いた。

 明日は仕事なんだ。良かった。

「そうなんだ。お疲れ様です」

 いつ伝えよう。

 ドキドキしていた。

 ただ「働きたい」と夫に伝えるだけなのに、こんなにも緊張してしまう。

 食が進まない。

「ご馳走様」

 孝介が食事を終え、席を立つ。

「孝介。ちょっと話があるの」

 彼を引き止める。

「なに?疲れてるんだから早く言って」

 怪訝そうな顔。

 彼に聞こえないように一呼吸した後

「私、働きたいの。家事は……。ほとんど美和さんがやってくれるし。もちろん、パートとかで良いから。何か、私にできることをしたくて……」

 孝介の目を見ることができなかった。

 どんな反応が返ってくるだろう。

 彼の顔を見ようとした時――。

 バシッと音がし、同時に頬に痛みを感じた。

 その衝動で顔が自然と右を向いた。

 えっ……。

 今、殴られた?

 その衝撃に驚いていると

「ふざけるなよ!自分の立場をわきまえろ!前にもこの話はしたよな?お前がパートなんかして、それを知り合いに見られたらどうするんだよ!九条家の嫁が働いてるって、貧乏だと思われるだろうが!会社のイメージだって悪くなるし……。親父にも迷惑がかかる。俺が不自由な生活をさせてるって勘違いされるだろ!」

 リビングに響き渡る声で怒鳴られた。

 もし反抗したら、また殴られるのかな。

「ご……めんなさい」

 昔のような言い返せる強い自分にはなれない。

「二度と同じ話をするなよ。バカが。なんでこんな女と結婚したんだろうな」

 捨て台詞のように吐き捨て、孝介は自分の部屋に戻って行った。

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